地中の詩人「地底に一筋の光 これが私の進む道」
作業服を着たいかつい体の男たちが、固く肩をだきあい、目をうるませた。13日、チリ北部のサンホセ鉱山。8月に落盤事故が発生した際には、多くの人が生還を絶望視しかけた33人全員が、地上に無事、帰ってきた。
33人はそれぞれ、さまざまな役割を担っていた。14番目に救出されたビクトル・サモラさん(33)は、地中にいた間、心境を詩につづり続け「詩人」と呼ばれていた。
閉じ込められてから間もなくのころ、サモラさんが書いた詩は、孤立感と悲しみで満ちあふれていた。
〈多くの日々が過ぎた 何も知るすべもなく ここ地中で 私の涙が流れ始める〉
だが、自分たちの生存が地上に伝わると、ことばにも希望が芽生えた。
〈仲間たちよ、士気を高めよう まず組織をまとめ 団結しなければ 祈らなければ 掘削ドリルが間に合うよう 神に頼もう 3週が過ぎ、音はやまない〉
地上で待っている妊娠中の妻と息子に思いをはせた。
〈あのころ考えられたのは どんなに悲しいかだけでも 妻と子に伝えられたらと 彼らは私を心から待っている 彼らは入り口にいる 私は地中で泣いていた そしてある朝、掘削が始まり 友らよ、知っているだろう 我々は聞いたのだ チリの人々の声を チリよ、我々はあなたの手の中にある〉
母親にも「母さんの愛は偉大だ」と詩を書き、地下から送った。妹のアナさん(31)は、「兄にそんな文才があるとは思わなかった。地下の暮らしの中で目覚めたみたい」と言う。
救助用の縦穴が通ったとき、サモラさんの希望は確信へと変わっていた。
〈ここ地底に一筋の光が差している これが私の進む道 信仰は失われず 私は生まれ変わった〉
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